ごきげんよう
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



今年は秋もなかなか素直には訪れぬようで。
日本家屋独特の、高い框に支えられた廻り回廊を縁取る
随分とゆかしき石畳を、それは白々と染める陽差しも、
まだまだ強くて目映いそれだが。
それでも、
陽が落ちて出来る陰は随分と長くなったし、
木陰を通った風は心地よく、
どこからか かすかに漂うは、金木犀の甘い香り。
画題には打ってつけだろう、
趣きのある枝振りの古楓や、陰影も風情ある鐘楼の跡など、
結構な由緒ある寺院の庭園を父とともに訪れていた白百合さんだが、

  ふと、その甘い潤みをたたえた水色の双眸を瞬かせると

大人たちが何やら興に乗って話している傍らからするすると後じさり、
今日は大人しくも淑やかな装い、
あまり飾り気のない濃色の、
白い袖口がほっそりした腕を印象的にするドルマン袖と、
細かいプリーツを巡らせたスカートというワンピースだったその裾、
ヒラリひるがえして松の木立へ飛び込むように駆け出している。




  同刻


ていねいに刈り込まれたイヌツゲが、
ブロッコリみたいに見えるこちらの庭園は、
南欧風の邸宅の白い漆喰壁がやはり陽に目映く輝いており。
庭先に広がる開放的な風景の中、
水色の真四角の池があるのは、どうやらプールらしかったが、
母屋にあたる棟の、
恐らくパーティールームだろう一番広い居室前にあるのは
眺めやるだけの代物か、それとも

  知己一同、水遊びが好きなお宅なのかな?、と。

底も漆喰か、白くて眩しいところへたたえられた水色の中、
水面の波が網目のようになって躍るのを飽かず眺めていたは、
時折吹き抜ける風に、金の綿毛を遊ばれては、
傍に居合わせたお人が“あらあら”と、半ば口実にしてだろう、
麗しのお嬢様の、絹糸のような髪へ手を入れる。
きりりと冴えた美貌のせいで、
ちょっと気難しそうな印象のする三木さんチのお嬢様だが。
それが女性であるのなら、手をかけられてもさほどに拒まず、
案外と大人しく、髪を梳かせてくれるので。
今日のような日のオープンパーティーでは、
よほどの事情でもない限り、どんなイケメンが揃っていても、
紅ばらのお嬢様の人気へは、太刀打ちできない情けなさ…だったが。

 「さぁさ、レディたち。
  本日の目玉、ジュエリー▽▽の秋の新作をご披露しますよ?」

巷の不景気もどこへやら、豪華宝飾品のお披露目とあって、
それが主眼目の集いなればこそ、
客人たちも あらまあと表情弾ませ、
展示会場とされている広間へ集まってゆく模様。
母の代参、こちらの夫人への挨拶も済ませた久蔵としては、
いつ帰ってもいいのだが、
あんまり早くに“迎えに来てコール”をすると兵庫がいい顔をしないので、
ご老体の長湯につき合う若いのという気分で、
もうちょっといても良いかなと、母屋へ戻りかけたのだが。

  ふと、その鋭く切れ上がった紅色の双眸を見開くと、

人々の一番しんがりになったのを幸い、
……と意識しているかどうかはおいといて。
ウエストカットのジャケットとセミタイトのスカートという、
さして仰々しくはない、動きやすいいで立ちなのを、
こっちは間違いなく幸いとし。
見る人によっては十分に色香もはらんでのこと、
深く脚を折り、ざっと低く屈み込むとそれで足腰へのバネをため。
ぶんっと振り切った両の手へ、例の特殊警棒を振り出して。
そんな構えを取ったことで沸き立った、かすかな殺気を嗅ぎ取ったか、
当家で飼われておいでのハスキーがウォンと低く吠えたけれど。
その声の余韻もまだ濃いうち、
久蔵お嬢様の姿は霞のごとく消え失せていた。




  やや経った別の刻


スキー場でもないというに、大仰なゴーグルをかけた少女が、
古ぼけたビルの屋上にひとり座り込み、
お膝に乗せた薄いノートPCを忙しなく操作しているところ。
一応は鉄柵の内側にいるが、
その眸はゴーグルを通して眼下の駐車場を見下ろしており、
各所へ取り付けられた防犯カメラへの侵入と、
周辺の様々な装置装備への働きかけのスタンバイに、
そりゃあ意気込んでのことのめり込んでおいでだったので、

 「おいおい、どっから入ったんだお嬢ちゃん。」
 「ここはいつ崩れるか判らないからって、立ち入り禁止なんだがな。」

縁際に座っていたのだから、
下からも見えたろうことは彼女には織り込み済みだったものか。
それとも咎める存在がわざわざ来るとは思わなかったか。
それにしては慌てもしないし、
キーを忙しく操作する指も一向に停まらない。

 「もしかして何か聴いてるとか?」
 「舐められたもんだなぁ。」

一応はスーツ姿の男経ち二人、
だがだが、着付けも物腰も、真っ当なビジネスマンには見えない砕けようで。
どっちかというと宵闇せまる繁華街で客引きしている方がはまるかも。
そんな顔触れが、
もしかしてインナーフォンで耳を塞いでいて自分たちの声が届かぬかと、
みかん色のさらさらヘアしたお嬢さんへ、
つかつかと歩み寄りかかったところへ、

  ひゅん、ひゅっか、と

そんな彼らを追い抜く格好、
不意に強めの風が、後方から吹きつけて来たのへと
おっととたたらを踏んだ彼らの目の前へ、

 「………え?」
 「いつの間に?」

立ちはだかる人影が二つほど、
文字通りの降って沸いたのだから、これはビックリもするところ。
片やは真っ直ぐな金の髪をうなじで束ね、
その手へ身の丈ほどもありそうなポールを構えた、
清涼にして玲瓏な印象も嫋やかな、瑞々しい美貌の少女なら。
もう片やは、やはり金の髪だが、
ややスタイリッシュに掻き回したワイルドさが印象的で。
こちらもいかにも華やかな美貌が麗しい美少女だが、
真っ赤な双眸は炯々と燃えるように冴えての吊り上がり、
手をかざしただけで無礼者めと手にした警棒で殴られそうな恐ろしさ。
双方ともにすらりと痩躯で、最初にいた少女と同級生らしい年格好。
風に押されて飛んで来たような現れようといい、
自前の得物持参で、しかもそれらをひゅひゅんと鮮やかに振り回すと、
それでウォーミングアップ終了か、
あらためて男ら二人へずいと迫り寄るおっかなさ。

 「な、何だよ、こいつら。」
 「知らねぇよ。カキタの親父が来る前に退かせって」

 「そうですか、大垣興産の社長が直々に来ますか。」

PCへのデータ入力が終わったか、
ゴーグルのままで顔を上げたは、三華が誇る天才PC小町の平八で、

 「悪趣味ですねぇ、地上げる家屋が粉砕されるところを直に見ようとは。」
 「ホーント、サイテー。」
 「……。(頷、頷)」

得物の切っ先、地に添わせるように低く構えた七郎次がじりと前へ出れば。
うっと口ごもった男たちが、だが、

 「判ったような口を利いてんじゃねぇよっ。」
 「たかが小娘が泣いて帰ることにな…。」

ひゅんっと風を撒いてうなった切っ先は、
見ていたはずの足元からあっと言う間に消え失せて。
次の瞬間、
迂闊に間合いへ踏み込んで来た片やの客引きもどきの肩をどんとつき、
仰のけざまにその場へすっ転がしている鮮やかさ。
それへ意表をつかれたもう片や、
え?え?とよそ見をしたのも大きに祟り、
脾腹をぶたれ、足元を蹴たぐられ、
あっと言う間に真横へ吹っ飛んでおり。

 「強引な貸しはがしで苛ぶった挙句、
  無理から手放すことになった人の気持ちごと、
  踏みつぶしてせせら笑って来たよなタヌキ親父。
  薪を背負って泥船へ乗ってもらわにゃ気が済まない。」

駐車場へ近づくセダンの情報を、小型のGPSで確認しつつ、
ここいら一帯の消火栓やら廃ビルの非常ベル、
廃線になってますが、
実は税金の無駄遣いした稼働式の高架橋だったんですという
大掛かりな代物までも
その制御を一手に召喚した怒れるひなげし様までが準備万端状態となり、
今から大掛かりなお仕置きが始まる模様で。



  さあ、保護者の皆様、
  駆けつけるなら今でしょう?(う〜ん…)






     〜おそまつ〜  13.10.03.


  *背景はまるで考えてません。(おいおい)
   何しか大暴れしてお灸を据えてやりたいおじさまがいると持ちかけられ、
   準備はしたが、いつ発動かは判らないと
   ヘイさんから言われてた、白百合・紅ばらのお二人だったようで。
   直前までいた会合やガーデンパーティーが、
   いざとなったらアリバイになってくれるかと。

   「…お主ら。」
   「ヘイさん…。」
   「久蔵、お使いの途中だろうが。」

   「いやん、怖かったぁvv」
   「あ、久蔵殿、袖口がほつれてますよ、縫いましょう。」
   「……vv///////」
   「お腹空きましたね、カップケーキありますよ。」
   「さすがヘイさんvv」
   「……vv///////」

   やはり相変わらずな人たちなのがしっくり来る〜〜〜。(こらこら)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る